高校生なら誰しも「自分はなぜ大学へ進学するんだろうか?」「大学ってどんな所なんだろうか?」と考えたことはあるはず。そんな疑問を解決すべく、東北生活文化大学高等学校の皆さんが東北福祉大学の渡辺先生の元へうかがい、大学進学を目指す高校生に求められることや、福祉という仕事などについてお話を聞いてきました。
大学という所は、何をするために進学する所ですか?
簡単そうでとても難しい質問ですね。いろいろなことがありすぎて答えに困ってしまいます。
まず始めに、「深い付き合い方のできる友人を作る」という場所ですね。とてもありきたりに思えるかもしれませんが、これがとても大切なのです。友情という側面からだけではなく、本当に心の底から信じ合えて語り合うことで、世の中には多様な考えがあることを知ることが、結果的に自分を知ることになるのです。つまり、出会った人と深く付き合うことによって「自分を知る」場所だと言えるでしょう。
もちろん、研究施設が多いことからもお分かりになると思いますが、「専門的な知識と技術を身に付ける」所であることは間違いないですね。
そして、皆さんのこれまでの生活と大きく異なるだろうという点を挙げると、「学んだことを吸収して外に出す」ことが必要になってくる所だということでしょう。高校までは、教えられたことを教えられた通りに答えることが大切とされています。極端な言い方をすれば、吸収するだけの勉強です。しかし、大学で学ぶ専門的な知識と技術は応用力が求められることがほとんどなので、自分の考えを文字や言葉を使って、自分なりに表現する力が求められるのですね。そのためには、先に説明したように、自分を知ることや多様な考え方を知ることが、とても重要となってくるのです。
こうしていくことで自分や取り巻く人々、様々な知識をどんどん知り、広く大きく社会を知ることができるのです。そういった点では、「社会を知る」場所とも言えるでしょうね。
ということは、自分探しのためということも、大学に進学する理由の一つと言えますか?
一つではあるでしょうね。
その気持ちを強く持って大学に入って来るのであれば、今の自分やこれからの自分を見つけるシステムが大学には十分にありますので、新たな目標なども見えてくるでしょう。
つまり、みなさんに絶対に持って欲しいことは目的なのです。目的の中には、将来こうなりたいという意味でキャリアというものがあると思います。「このために学校に通うのだ」といった目的がないのであれば、大学に通う意味はありません。本人は当然として教える側としても、無目的な状態では何もフォローしてあげることもできないので一番困ります。宙ぶらりんとしていたり、社会性が欠けたままではだめですよ。
この大学の名前にもある「福祉」は現代において大変注目されていますが、「福祉」において大切なこととはどのようなことですか?
人間の尊厳や多様性を見出して、一人ひとりの生き方を大事にするということが、基本の考えとしてあるでしょうね。
どのような人間でも尊厳性があるのが当然なのですが、それを忘れると必要以上に「高齢者ケア」などの言葉が特別なもののように扱われます。
生活、生命、人生の質、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)と呼ばれますが、それらを考えれば、福祉というものは何も特別なものではなく、当たり前のことなのですよ。
よく「福祉の現場」「医療の現場」という言葉を聞きますが、福祉と医療は別々に考えなくてはいけないものなんですか?
そんなことはないですよ。
その二つだけではなく、今は「保健」の分野も含めて、福祉・医療・保健の分野が密接に関係していると言えます。
それぞれの言葉が持つ厳密な定義などは、意見が分かれるものもありますし、ここでは話しきれないので、簡単に関係を説明させていただきますね。
大まかに、福祉は幸せな生活を送るためのもの、医療は病気を治したり予防するためのもの、保健は健康を保つためのものと考えるとしましょう。ですが、これらは同じようなものだったり、重なっている部分があると思いませんか。
福祉を例に挙げると、福祉と言っても、高齢者保護や障害を持った子どもへのケアなどいろいろな内容があります。その時に、「あの人にとってはこの治療が必要だ」というのは医療の分野だとか、「これ以上悪くしないためには、こうしたほうが良い」という保健の範囲である、というように区別して考える必要はありません。
人間が生まれてから死ぬまで、幸せを求めようとするならば全部福祉といえば福祉なのです。その時々で、医療や保健が絡んでくるだけです。少し前に流行した「はしか」などは、予防接種は保健になりますし、実際にかかってしまった人の治療は医療になります。今は、社会福祉の施設の中に医療を入れたり、逆に医療が福祉施設を作ったり、現実的な連携を取っていますよ。
この東北福祉大学でも、来年の4月にリハビリテーション学科を作る予定なのですが、リハビリテーションというのは医療寄りではあるものの、福祉でもあるわけです。作業療法士は利用者にいろいろと作業をしてもらって脳を活性化するお手伝いをしますし、理学療法士は体を動かして様々な部分を改善してもらいます。人間の一個体というのは、どこか悪くなれば医療と福祉どちらも関係します。
福祉施設にも看護師はいますし、医師と社会福祉士、社会福祉士とケアマネージャーというように、あまり分野を区別なく連携することが多いですよね。
学校に関するいろいろな問題がテレビなどで報じられていますが、東北福祉大学ではどのような先生を育てているのですか?
国公立大学では学ぶことが難しい、一連した知識を持った教員を育てたいと思っています。
定められた課程に従えば、中学高校の教員免許はだいたいどの大学でも取得することができますが、小学校教員を取得可能な大学は限られています。それは教員免許取得のために学ぶ学科の種類の多さが関係しています。
中学高校は科目ごとに教える先生が異なりますが、小学校の先生は一人で国語算数音楽体育とたくさんの科目を教えなければならないですよね。
つまり、小学校教員を養成する大学側としては、大学生を指導するためにたくさんの教授が必要になってくるのです。そうすると教授を確保しやすい国公立大学の方が小学校教員養成の中心となっているのですが、私としては国公立大学の教育に一つの疑問があります。
それは、子どもに関して一連した知識を持っていない教師が多いのではないか、ということです。
この大学では、小学校教員資格と同時に、幼稚園教員や保育士の資格も取れるようなカリキュラムで学ぶことを勧めています。たしかに保育園、幼稚園、小学校という区別はありますが、小学校低学年の子どもには幼児期の子どもの知識が必要ですし、同じように、幼児期の子どもを知るには乳児期の子どもへの理解が必要でしょう。
このように一連した知識があって、子どもに関する広い知識がある先生の方が、良い小学校の先生だと思いませんか。
小学校教員に限ったことではありませんが、福祉の考えを底辺に、頑張って複数の資格を取って、より実用的な資格にしようという気持ちや考えを持った教員に育って欲しいですね。
最後に、キャリアについて考えている私たちを高校生に対してメッセージをお願いします
みなさんの年代の方々はあまり経験がないかもしれませんが、これからは学んだものをすぐに実践に移すかどうかによって、将来得る能力や知識に大きな差が出てきます。大切なことは、どちらか一方ではなく、知と技術を同時に学ぶことなのです。
これからの数年間は、他の時期の10年間と同じくらいの価値があると考えてください。人生において本当に重い数年間になるでしょう。絶対に無駄にしないでください。自分が将来、お給料を得ながらどのように社会に貢献していくか、これもキャリアを考えることの一つです。
できる限り早く目的を持って生活し、大学だけにとらわれず、自分にあったキャリアを選択して欲しいですね。